クラフト工房La Mano
住宅街の中にある、豊かな自然に囲まれた工房
東京都町田市郊外の住宅地の一画、豊かな木々に囲まれた小高い丘の上に建つ、築100年の古民家「クラフト工房ラ・まの」を訪ねました。
スペイン語で“手”を意味するLa Manoは、染めと織り、アート制作を活動の中心におく就業支援施設。障がいを持つメンバーさんとそのサポートをするスタッフの方々が共に働く、手仕事によるものづくりの工房です。
施設長の高野賢二さんのお話を伺い、社会と繋がる魅力的なものづくりの場を見せていただきました。
※メンバー:自閉症、ダウン症などの知的な障がいを持つ、La Mnoで働く皆さん。
※スタッフ:指導員の方々。美術系の学校出身で、専門知識を持った方が多いそうです。
綿花作りからアート作品まで 様々な“手”仕事が生まれる場
元々は障がいを持つ子供たちの造形教室を前進として、支援学校を卒業した後に働ける場所として設立された工房。始めは1名のメンバーからスタートしましたが、
現在では27名のメンバーと18名のスタッフ、年間のべ1000人以上にもなるというボランティアの方々が参加する場にまで大きくなりました。
工房は主に、ベテランメンバーが染料の甕(かめ)を行き来する「染め場」、織り機が賑やかに動く「織り部屋」、個性的なアート作品が生まれる「アトリエ」の3つの作業場と、野菜や藍、綿花などを育てる畑から成ります。
少しずつメンバー・スタッフが増えていくに従い、せっかく織りをするなら糸も自分たちで染めてみよう、綿花も栽培してみようと、徐々に活動の幅が広がっていきました。
メンバーのみさなんは、それぞれに自分に向いている作業・得意な業務を担当し、週5日、9:00から15:15まで働いています。
夏と冬に工房で開催される「染織展」、外部での展示会への参加、各種ワークショップなど、様々な手仕事イベントも開催しています。
色の濃度の異なる十数種類のバケツを使い、染める回数で色の濃さを調節していく染色作業。タイミングが難しく技術を要する作業のため、担当するメンバーも限られているのだそう。
工房で染められた糸を使っての織り作業。染料は、栗・マリーゴールド・玉ねぎ・茜・コチニールなどの天然染料を使っています。
メンバーのみなさんの描いた絵の中から手ぬぐい・カレンダー等のモチーフが生まれます。抽象的な作品の方、緻密な絵を描く方、豊かな色使いをする方など、それぞれが個性にあふれ、思わず見とれてしまいます。中にはアーティストとして個展を開くほどの方も。
こちらは畑。野菜や藍、綿花などを育てています。畑仕事や庭の手入れは、地域の方を中心としたボランティアの方々が多く参加されるそうです。
型染め鯉のぼりが生まれたきっかけ
工房で染めた手ぬぐい、染めた糸を織って作るバッグやポーチ、ショール、さらにアート作品を使ったポストカードやカレンダーなど、様々な手仕事の作品を生み出すLa Manoさん。WISE・WISE toolsとのつながりは、9年前に型染め鯉のぼりをご紹介いただいたところから始まりました。
現在では、店頭やオンラインショップでも大人気の型染め鯉のぼり。天然素材にこだわって全工程手作業で作られた、飾りやすいサイズ感と温かみあふれる優しい風合いが魅力です。
この鯉のぼりがどのようにして生まれたのかを伺いました。
きっかけは、施設長の高野さんが外部のワークショップに参加され、鯉のぼりを型染めで作るというアイデアを得たことでした。
最初は遊び感覚で作っていて、色も藍色だけだったとのこと。それが、赤い鯉のぼりや吹流しが加わるなどバージョンアップを重ね、どんどんクオリティも上がっていき、現在の形になりました。
今では工房のみなさんの思いが詰まった、La Manoを代表する作品の一つとなっています。
優しい風合い。綿の手ぬぐい地に藍や茜など天然染料のみを用いて染めています。
製作過程の鯉のぼり。ちょうど乾かしているところで、この状態から筒状に縫い合わされて、鯉のぼりの形になっていきます。
「ものづくり」によるコミュニケーション La Manoの特色
特に福祉の仕事に関心があったわけではなく、先輩に誘われたことがここで働き始めるきっかけだったと語る高野さん。
スタッフには美術系の学校出身の方が多く、高野さんご自身も染色を専門に学ばれた経歴を持ち、ものづくりに関わりたいという気持ちで工房に入りました。
「それまで関わることの無かった障がいを持つ方たち。一緒にものづくりをするということは想像もつかなかった。」と言います。
中に入って感じたのは、自分達と同じようにメンバーにも得意不得意があり、皆でお互いに補い合い尊敬し合う関係を築いているのがこの工房の特色だということ。
細かな織りをする人、上手に布をさばき染めができる人、糸巻きが得意な人など、皆それぞれに個性があり、ものづくりを通じて障がい・健常の垣根を超えた自然なコミュニケーションが生まれています。
メンバーのみなさんへのケアやサポートは必要ですが、自分達の活動のためだけではなく、お客様のために物を作っている、作業の先にお客さまが見えることが何よりのモチベーションになっています。
「応援してくれる方、ファンの方のために製品を作るということが設立時からの想い」であり、福祉活動だからという理由ではなく、商品自体の魅力で社会から求められるものを作るということへの信念を感じました。
染めの作業をされていたのは、この道18年の西沢さん。新人のスタッフがベテランメンバーに学ぶことも。
染色の材料になるたまねぎの皮は大量に必要なので、ご近所のお弁当屋さんやボランティアさんが集めてくださいます。地域の方たちとも自然なつながりがあります。
工房の様子を動画でご紹介します。
鯉のぼりの製作工程を見せていただきました
01 藍染め
藍甕(あいがめ)につけて
染めます。
酸素に触れることで酸化発色
するので、染めて乾かしては
水にさらす工程を10-12回ほど
繰り返して濃い深みある色に。
02 抜染
鯉のぼりの柄の型紙の上から
糊を乗せて抜染することで、
生地の白が浮かび上がります。
03 茜染め
赤い鯉のぼりの茜染めは
糊置きをした後、
刷毛で少しずつ色を
引き染めしていく流れを
繰り返すこと12回。
最後は蒸すことで
色を定着させて、
半日ほど水にさらします。
とても手間のかかる作業。
04 縫製
取材当日は、ちょうど鯉のぼりの
吹流しの縫製作業をされて
いました。
こちらもひとつひとつ手作業で。
05 天然染料
青い鯉のぼりは藍、赤は
インド茜を染料としています。
人にも環境にも優しい
天然染料は、自然の色を
身近に感じる
心地よさも。
06 完成
手仕事による天然染料の
染めは、色合いや表情が
微妙に異なり、そんな
小さな揺らぎも魅力です。
今春に、藍染や草木染の専用作業場が完成。人の輪はこれからますます大きくなるでしょう。わたしたちもその輪の広がりの一助となりたいと思います。
WISE・WISE tools 芳賀
Craft Studio・La Mano
クラフト工房La Mano
1992年に障がいを持つ人たちの働く場として設立された工房です。
“La Mano”とはスペイン語で“手”の意味。藍・草木の植物や天然素材を使って、ひとつひとつ糸や布を染め、機をおり、糸を刺し、紙に描いていきます。
環境にも人にも優しい製品を皆さまにお届けしています。