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作り手をたずねて

花をいけるように、うちわを飾る

京うちわの、繊細で優美な美しさを暮らしの中に

京都に行くときは、いつも心が浮き立つ気分がする。古き良き日本の姿を感じ、訪れるたびに改めて知る日本文化の奥深さに心が動かされます。
京都を代表する通りのひとつ、四条通り。東は祇園・八坂神社の石段の下から、西は嵐山の松尾大社まで京都市内を東西に結び、いつの時代も京都を楽しむ多くの人を迎えてきました。
今回の京都の旅の目的地は、この四条通りのほど近くにある一軒の老舗。
地下鉄四条、もしくは烏丸駅を降り、四条通りから「京都の台所」と言われる『錦市場』に入り、そのまま北へ一筋入ったところに、京うちわの専門店「阿以波」があります。

歴史ある「阿以波」ののれん

京うちわのルーツ

阿以波が創業したのは、元禄2年(1689年)、時の権力者は徳川綱吉の頃。江戸時代初期、17世紀後半になると世の中が平和になり、人々の生活にもゆとりが生まれました。産業が発展し、町人が経済力をつけ、学問や娯楽、絵画、文学、演劇など、大阪・京都の「上方」で庶民を中心にさまざまなジャンルの文化が花開きました。そんな時代に、「阿以波」は初代・長兵衛が京でお店を開き、7代目から京うちわの専門店として、実用的なものから装飾用のうちわまで、うちわづくりと販売を行うようになりました。
今回、ご案内してくださったのは、十代目となる饗庭長兵衛(あいばちょうべい)さん。自身も職人である饗庭さんは、初代から続く「長兵衛」の名を襲名し、歴史ある「阿以波」ののれんを引き継ぎました。

 

十代目となる饗庭長兵衛さん

「日本三大うちわ」のうちのひとつ「京うちわ」

「日本三大うちわ」のうちのひとつ「京うちわ」2

「京うちわ」は、千葉の「房州うちわ」、香川の「丸亀うちわ」と並んで、「日本三大うちわ」のうちのひとつに数えられます。
うちわのルーツは中国・朝鮮・南方系の三つの系統に分けられ、京うちわは中国・朝鮮の流れを汲むものとされています。うちわの扇の部分と把手(とって)の部分に分かれ、挿柄しているのが特徴で朝鮮うちわの形を引き継いでいます。

 

京うちわの原型は14世紀、南北朝の時代に中国大陸や朝鮮半島沿岸地を行き来していた海賊・倭寇によってもたらされました。その後紀州から京都に伝わったのがはじまりといわれています。江戸時代になると、京うちわの特徴である挿し柄構造が確立されました。扇部には当時活躍していた御用絵師の狩野派や土佐派の絵が施され、「御所うちわ」として宮中で愛用されるようになりました。
その後、京うちわは庶民の中でも広がり、暮らしの中で涼をとる道具として使われるようになりましたが、他にない美しく華やかな装飾は贈答品やみやげものとしても喜ばれました。

美しく華やかな装飾は贈答品やみやげものとしても

京都のまちに息づく、職人の手技

一般的に京うちわは大きく分けて4つの工程(うちわ骨加工・うちわ紙加飾・裏張り加工・仕上げ加工)、全部で16の工程に分かれ、それぞれの工程に各職人が携わる分業体制で生産されてきました。しかし、近年の職人不足や廃業で分業体制の存続が難しくなる中、阿以波では、うちわづくりの工程を全て自社で一貫して行うようになりました。

うちわづくりの工程を全て自社で一貫して行う

京うちわは、扇面を平に仕上げるため、薄紙に骨を並べて仮貼りします。障子のように骨にだけ糊をつけて、手描き、木版、透かし彫りや箔などで加飾された本紙を貼りつけます。乾いたら仮張りを剥がし、最後に把手の部分を差し込むことで、華やかで美しい京うちわが出来上がります。

竹の骨が多いものほど高級品とされる

竹の骨が多いものほど高級品とされ、本数は50本から120本ほどのものも。透かしうちわは、放射状に広がる竹の骨組の構造を見せながら、その上に四季折々の美しい自然が彩られ、京都の職人技の結集で生まれた世界が広がります。

四季折々の美しい自然が彩られる

京都の職人技の結集で生まれた世界

饗庭さんは「ここ20年の間、時代の流れは大きく変わりました。様々な職人の技術を合わせてつくり上げるアッセンブリーな工芸の存続が難しい状況の中で、なんとかこの伝統を守らなければいけないとたくさんの苦労がありました」と話します。

「伝統工芸は、変わっていかなければいけない」

京うちわの骨格をなす「竹」の素材。分業が盛んだった時代にはうちわ専門の竹屋さんがいくつもあったのですが、今では多くのところが廃業してしまいました。阿以波では廃業前に竹屋さんで修行し、加工技術を学んで、自分たちで竹材の初期加工を行うようになりました。また、柄の部分となる「木材」を製材する工場も事業継承が厳しいという状況に。京扇子・京うちわのお店が協力して材料を作り出す機械を引き取り、技術を継承しようと試行錯誤を重ね、力を合わせてきました。

技術を継承しようと試行錯誤を重ね、力を合わせてきました

「伝統工芸は、変わっていかなければいけない。時代に合わせて価値を生みだし、使っていただきやすい形にする。その中で、技術をベースにして美をつくり続けていかなければなりません」と饗庭さんは言います。

魔を打ちはらい、四季の風を感じる

魔を打ちはらい、四季の風を感じる

「うちわは、もともと『魔をうちはらう』という意味もあり、めでたい品として贈り物にも使われてきました。いまでは贈答品としての需要は少なくなりましたが、色々な用途で使っていただけるように、うちわの文化を絶やさず次の時代にもつなげていきたいと思っています」

花をいけるようにうちわを飾っていただければ

「花をいけるようにうちわを飾っていただければ、忙しい暮らしの中にも季節を感じていただくことができます。かつては、日本はもっとゆったりとした暮らしの中で四季折々の美しさを感じながら生活をしていたように思います。季節の心地よい風を感じるように、うちわを眺めていただきたい。自然から与えられるほっとするような景色や時間を、うちわを通して感じていただけたら幸いです」(饗庭さん)

伝統を守るものとして、京都の美意識を守り抜き、上質なものをつくり続けなければいけないという、うちわ一筋に生きる固い思い。ひとつひとつの材料についても妥協を許さないものづくりの姿がありました。
日用品から、贈答品、美術品、そしてインテリアまで。現代の暮らしのニーズに合わせて、形もそれぞれ変えていく。京都の町に息づく職人の技術は、こうして伝統を受け継ぐ人たちの見えない努力によって守り続けられ、日本文化の色彩豊かな美しさが伝えつづけられていきます。

文・撮影:さとう未知子

四季を彩る、京うちわ- POP UP開催中
現在、WISE・WISE tools 東京ミッドタウン店では、日本の四季を感じる華やかな京うちわで店内が彩られています。ぜひお越しください。
■開催期間:
2023年3月31日(金)まで
【場所】
WISE・WISE tools(東京ミッドタウン六本木 ガレリア3階)
営業時間:11:00-20:00

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