小川和紙 久保製紙
江戸の紙文化を支えた、小川和紙
秩父の山々と、関東平野に根付いた人々の暮らしが交差する『武蔵の小京都・小川町』は、建具、絹、酒、和紙など、自然の恵みを活かしたものづくりを得意とする、職人の町として栄えてきました。
なかでも1300年の歴史をもつ小川和紙は、伝統ある製法で作られる「細川紙(ほそかわし)」の技術をもとに、江戸・東京で生まれる様々な需要にいち早く、そして幅広く対応することで発展してきました。
細川紙の伝統と、日々変わりゆく暮らしとともに進化する技術は代々職人たちに受け継がれ、小川和紙は今なお多くの人々に愛されています。
伝統を受け継ぐ「細川紙」
小川和紙のなかで最も伝統的な製法で作られる「細川紙(ほそかわし)」は、紀州高野山の細川村の紙と風合いが似ていたことが名前の由来と伝えられています。未晒しの純楮紙ならではの強靭さや、甘皮を残すことで生まれる飴色の光沢が特徴で、昭和五十三年に国の重要無形文化財に指定されています。
かつて小川町には沢山の楮が育っていました。広く、強く張る根は傾斜地や貯水池の補強として、大きく広がる枝は庭や畑の境界線や風除けとして、住む人々に様々な恩恵を与えてくれました。和紙原料としての楮もそのひとつでした。 細川紙の製法は代々受け継がれていますが、木材パルプなどを主原料とする和紙が増えた近年、楮と共に生きる産地の原風景と、和紙作りが自然の営みのひとつであることを感じとる機会は失われつつあります。 小川町で育てた地場産楮で作る、こだわりの細川紙には、自然と寄り添いながら暮らす未来への想いが込められています。
小川和紙の紙漉き作業を見せていただきました
和紙に浮かび上がる、小川和紙の歴史
小川和紙の主力品であった、着物を収納する際に使う「たとう紙」。
この「たとう紙」に使われる和紙は、松の木の干し板で干されます。ほとんどが戦前から使い続けているもので、長年使われることで浮き上がった木目が和紙に独特の風合いを与えます。和紙に映し出された木目はたとう紙の通気性を保ち、滑り止めの役割も果たします。
松の木の干し板で干される和紙
戦前から使い続けられている干し板
板目が浮き上がります
着物を収納する際に使う「たとう紙」
楮の芽かき~紙漉き体験
今回は収穫前の芽かき作業でしたが、幹に栄養を集中し太い楮を育てるために、年中行われている作業とのこと。
工房裏手の楮畑
和紙の材料になる楮の“皮”をはぎ取りやすくするため、余分な枝を事前に切り落とします。材料や紙になった段階で虫がつきにくいよう、後日、木の中に蓄えられている栄養分が無くなってから収穫をします。
皮だけになった楮は水に浸し柔らかくします。
見楮の皮を叩いて、束になった繊維をほどき、紙漉きの材料にしていきます。
楮が水中で均等に広がるよう“トロロアオイ”という植物の根から抽出した粘液を利用します。
ミニサイズの“簀”で紙漉きを体験しました。実際のものより随分小さいですが、それでも安定して動かすのは至難の業です。
楮の芽かき体験は12月半ばのイベント。
冬の澄んだ空気を体いっぱいに感じての作業でした。
楮の木は畑以外の川べりにも生えていて、昔から和紙づくりが暮らしの一部になっていたことをしみじみ感じます。
何よりも驚いたのは、職人さんが実際に使っている“簀”の重さ。
女性の職人さんが軽々動かしている(ように見える)のは圧巻でした。
WISE・WISE tools
Kubo Seishi・Takamasa Kubo
久保製紙・久保孝正さん
「久保製紙」の5代目・久保孝正さんは、そんな歴史ある小川和紙で、材料の栽培技術の継承と、化学薬品を使わない和紙づくりを目指し、産地を盛り立てています。
「手漉き和紙」と一言で言ってもその内容は様々で、材料の産地も国産のものから海外産のものまであれば、材料が腐らないように薬品が使われることもほとんとです。
今すぐに全ての和紙を地元産の材料で、化学薬品を使わないものに差し替えるということは難しくても、どんな成り立ちでできた和紙なのかを理解した上で使ってもらいたい、という思いから、和紙材料についての情報を積極的に公開。
楮の芽かきや収穫、紙漉き体験なども企画し、伝える活動にも力を注いでいます。