陶芸家 泉田之也・のだ窯
風土性豊かな暮らしの器 – のだ窯・泉田之也
岩手県の北部、三陸海岸から遥か太平洋を望む自然豊かな土地、野田村。
お隣の久慈市は江戸時代から続く「小久慈焼」の産地で、のだ窯のご主人・泉田之也さんが焼き物の修行を積んだ土地でもあります。泉田さんは小久慈焼窯元岳芳氏に師事した後、1995年、野田村に「のだ窯」を開窯。その後の1998年、穴窯での焼成を始め、地元の土をベースに、暮らしの器からダイナミックなオブジェの制作までと活動の幅を広げています。
日々の暮らしから生まれた「片口すり鉢」
「片口すり鉢」は、のだ窯を代表する開窯当時からのロングセラー。
使いやすくシンプルな造形に味わいある釉薬の表情が温かみを加え、そのまま食卓に出しても様になる絶妙のデザインです。原料の土には、地元・野田の土と久慈の土を掛け合わせたものを使用しており、焼き物が盛んな西日本の土に比べると若干の軽さがあります。
修行時代にすり鉢やコーヒーカップなどを主に作られていた泉田さん。特にすり鉢の道具としての面白さ、器の中の櫛目や形の美しさに惹かれ、そこに小久慈焼で長く作られている片口の使い勝手の良さをすり鉢に盛り込めないか、という発想から「片口すり鉢」の原型が生まれました。その後、日々の食卓で使っていく中でのマイナーチェンジを経て、現在の形に至ります。
泉田さんのご家庭ではすり鉢としてだけでなく、お漬物をよそったりと、日々の器として気軽に使われているそうです。
開窯当時にご夫婦で建てられた穴窯。地震のたび修繕を繰り返し、今に至ります。
ギャラリーには暮らしの器のほか、泉田さんの手がけた様々なオブジェ作品も展示されている。
すり鉢製作
すり鉢のベースになる形をろくろで成型します。
擦り面に専用のクシで溝をつけていきます。
片口部分を作ります。
半分に切って。
すり鉢に片口がつきました。
もうすぐ完成。
Nodagama Yukiya Izumita
泉田之也・のだ窯
暮らしの器とは別に、数々のオブジェ作品も手がける泉田さん。
ご夫婦で作られたという穴窯から、土の質感を活かした風土性豊かな作品が生まれます。2007年には、野田村に「のだ窯ギャラリー IZUMITA」をオープン。近年ではドイツやアメリカなど、海外のギャラリーでの展示等、更に活動の幅を広げています。
そんな中、2011年3月の震災では泉田さんの暮らす野田村も津波の被害を受けました。幸いご自宅と工房に大きな被害は無かったそうですが、言葉に言い表せないような無力感に襲われ、作陶する気持ちになれないこともあったそうです。しかし、自然の偉大な力を見せ付けられたことに対して、より謙虚な気持ちで作品と向き合うようになったとのこと。
これからも泉田さんの土との対話は続いてゆきます。